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作者未詳、蜂飼耳・訳「虫めづる姫君 堤中納言物語」(光文社古典新訳文庫)
岩波文庫で原文を読みながら光文社古典新訳文庫で現代語版を読むという「二刀流」で「堤中納言物語」を読んでみたら、なかなか面白かった。
「堤中納言物語」そのものの概要と感想については岩波の感想にまとめ、現代語訳の感想、岩波文庫と光文社古典新訳文庫の比較については、光文社の感想にまとめることにする。
よって、こちらでは現代語訳の感想などを。




光文社古典新訳文庫の訳は「新訳」とだけあってかなり現代風だ。普段古典を読まない人でも気軽に読めるよう配慮されていると感じるが、一方である程度古文を読み慣れていてかたい訳に慣れている人だとやや違和感を覚えるかもしれない。
たとえば少納言に「さん」づけをしているなど、他ではない訳し方だろう。

この訳が秀逸なのは、表題にもなっている「虫めづる姫君」の姫君のセリフだ。ややぶっきらぼうな口調が姫君のキャラクターとマッチして生き生きと描かれていると感じた。

また、面白いのは解釈が分かれる部分で、ことごとく岩波文庫と反対の解釈をしている点だ。
たとえば「桜花折る中将」のラスト。岩波文庫の注釈では「尼君のご器量はこの上もなくすばらしかったんだけれど」(でも年寄りじゃ、仕方ないよね、という意図か)。一方、こちらでは「中将はたしかに好青年ではあったけれど」(でも姫君と尼君を間違えるなんて、マヌケだよね、という意図か)となっている。
こういった解釈の違いを比較しながら読んでみるのも面白く、楽しい読書体験となった。


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大槻修・校注「堤中納言物語」(岩波文庫)
岩波文庫で原文を読みながら光文社古典新訳文庫で現代語版を読むという「二刀流」で「堤中納言物語」を読んでみたら、なかなか面白かった。
「堤中納言物語」そのものの概要と感想については岩波の感想にまとめ、現代語訳の感想、岩波文庫と光文社古典新訳文庫の比較については、光文社の感想にまとめることにする。
よって、こちらでは作品そのものの概要と一言感想を。



「堤中納言物語」はそのタイトル名の由来も、成立した年も、作者もよくわかっていないという、謎の多い物語集だ。
しかし、読んでみると一遍一遍にとても個性があり、現代人が読んでも魅力を感じる作品が多い。それぞれの作品の概要は以下の通り。

★花桜折る中将★
とある好き者の中将は、荒れた家に通りかかった時、偶然その家に住む美しい中納言の姿を垣間見る。中納言が近々帝のもとに引き取られると知った中将は女を自分のものにするため、さらおうと企てる。しかし、計画は失敗。中将は女と誤って老婆をさらってしまうのだ。
間抜けな話だが、悲惨なのはこの老婆。人違いで誘拐された上に1人で逃げ帰ったのだろうか・・かわいそうに。

★このつゐで★
女房たちのおしゃべり。香炉を囲んで三つの小話が展開される。夫と息子との別れを嘆く女性、世をはかなんでいる女性、出家しようとする訳ありの女性、と厭世的で鬱々とした話ばかりが展開されるが、最後に帝が中宮のもとを訪れるシーンが展開され、そこでぱっと光がさすように迎えるラストが鮮やか。

★虫めづる姫君★
蝶より毛虫が好きで、世間体や常識にはとらわれない、かなり個性的な姫君に、とある貴公子が興味を持つ。
この姫君、屁理屈を並べているようで意外と言っていることが名言めいていて、読んでいて小気味よい。間違っているのは世間一般で、正しいのはこの姫君なのではという気すらしてしまった。

★ほどほどの懸想★
下・中・上と三つの身分階層の者たちのそれぞれの恋模様を描いた作品。下層の小舎人童と侍女の恋は無邪気でかわいらしい。中層の侍者と女房の恋は遊びの恋、というか誰でもいいからとりあえず女に手紙を出す、といういい加減すぎる展開に唖然。上層の頭中将の恋は事情はよくわからないが鬱々としている。身分が上の人の恋は煩悶に満ちているとでもいいたいのか。

★逢坂越えぬ権中納言★
菖蒲の根合わせで活躍する中納言のイケメンぶりを描いた明るい前半と、恋に鬱々と悩む女々しい姿を描いた後半のギャップが激しい作品。同一人物とは思えない落差を感じる。そして、「菖蒲の根合わせ」で根の長さを競う、という遊びの発想が斬新。貴族ってなんて暇なんだろう…と思ってしまう。

★貝あはせ★
こちらは貝の美しさを競う「貝合わせ」の物語。子どもたちが姫君のために貝集めに奔走するものの、思うように貝が集められなくて困ってしまい、観音様に助けを求めてお祈りをする。それを垣間見た少将が観音様のふりをして、こっそり貝を届けてやる。大喜びする子どもたち。とても心がほっこりする作品。個人的には「虫めづる姫君」に次いで、この作品が好きだ。

★思わぬ方にとまりする少将★
「貝合はせ」とはうってかわって、こちらはなかなか悲惨な物語。零落した哀れな姉妹の身の上が描かれた上で、最後には夫婦交換というあってはならない事態が展開される。現代の女性の感覚で読むと、なんでも受け入れるしかないこの姉妹がかわいそうでならない。

★はなだの女御★
大勢の女たちが自分の仕える姫君を花にたとえて表現する。そして、それを覗き見ている好き者の男。当時の女性は花の知識が豊富にあって、それぞれの花のイメージを明確にもっていたから、こんなにさまざまな人を花にたとえることができるのだろう。残念ながらそんな豊かさを持ちえない私が読んでもただの単語の羅列にしか読めず、その感覚を理解できないのが悲しい。

★はいずみ★
優柔不断な男が妻を追い出して新しい女を迎えようとするものの、やはり妻がいとしくなって取り戻しに行く。挙句の果てに新しい女にも未練があって再び訪れたところ…女がおしろいと間違えて墨を顔に塗りたくってしまい、男をぎょっとさせる、というなんだかよくわからないとぼけた展開の物語。

★よしなしごと★
僧侶と恋仲になっている女に忠告をするため、師である僧が書いた手紙、という体の、いわば書簡小説。しかし、その手紙の中身ときたら、あれをよこせ、これをよこせ、と高価なものから粗末なものまでを列挙したもので、これのどのあたりが忠告になるのか、いまいちよくわからない。

★断章★
冬の鬱々とした恋が描かれる…と思わせたところで終わっている作品。ここから何が描かれるのだろう。想像してみると面白い。

「岩波文庫」には現代語訳はついていないが、その分注釈がしっかりしており、読解につまずきそうなところには解説もついているので、とても読みやすい。ある程度古文の読解力がある人なら、この岩波文庫だけでも十分内容を理解できそうだ。













上田秋成・著、井上泰至・訳注「春雨物語」(角川ソフィア文庫)
久しぶりにじっくり古典が読みたくなって、手に取ったのがこちら。


秋成というと『雨月物語』が有名だが、次に有名なのがこの『春雨物語』だろう。
十作品を収めた短編集だが、歴史物語、怪異小説、歌論と作品がバラエティに富んでいるので、現代人が読んでも飽きずに楽しめる。ただ、純粋な物語というよりは、作品や登場人物を通じて秋成が自分の主義主張を行おうとしているケースが多いように感じられる。
各作品の概要は下記のとおり。

・血かたびら
平城天皇と薬子の変を中心に描いた歴史小説。話の展開にとりとめがなく、またこの平城天皇が何とも頼りない。表題は罪を問われて捕らえられ、恨みを持ったまま自刃した薬子の血が几帳に飛び散り、いつまでも乾かなかったという話による。

・天津処女(あまつおとめ)
歴史小説。こちらもとりとめのない話が続く。印象的なのは良岑宗貞のエピソードで、彼の色好みを懲らしめようと、天皇が女装して宗貞を待ち受けたという話がお茶目というか、しょうもないなあ、と苦笑い。

・海賊
『土佐日記』を題材に取った歴史小説。紀貫之の前に海賊が現れ、貫之の和歌の解釈について批判を始める。海賊にしては教養が深すぎる、と違和感を覚えながら読んでいたら、この海賊は文屋秋津であった、というオチがあった。海賊のセリフという形で描かれてはいるが、この貫之批判は、秋成自身の主張なのだろう。

・二世の縁(にせのえにし)
話が滅茶苦茶すぎて、どこから突っ込んだらよいのやら。
庭の下から不審な音がするので掘り返してみると、即身成仏を遂げたミイラのような男が出てくる。この男、一度は成仏した身で記憶を失っているが、蘇生し、俗世にまみれてなぜか結婚するものの、生活力もなく、貧乏暮らしとなり、妻が嘆いている、という話。
おそらく仏教嫌いな秋成。即身成仏なんてありえないと皮肉を込めて、こんな話にしてしまったらしい。

・目ひとつの神
和歌を習おうと東国の男が都を目指したところ、神や化け物たちに遭遇し、都に師となるような人物はいない、独学に励め、と追い返される。奇妙な話だが、これも秋成の思想の現れか。

・死首の咲顔(しにくびのえがお)
壮絶で救いのない悲話。裕福な家庭に育った五蔵と、貧しい家柄の宗はお互い愛し合っているが、貧富の差から、五蔵の父親、五曾次に結婚を反対され、会うことを禁じられる。思い悩んだ宗は病床に臥してしまう。いよいよ危篤という事態に、五蔵は親の反対も省みず、宗と急遽結婚し、せめて宗を自宅で死なせてやろうと自分の家に運ぶ。しかし、父五曾次は宗を厄病者扱いし、追い返そうとする。五蔵の家で死にたいという宗の願いをかなえるため、兄、元助は宗の首を切ってその場で殺害する。
宗を殺したのが恋人(夫)ではなく、兄であるという展開が意外。そして妹を殺したのに元助の罪が軽い点が更に意外だ。
殺人を犯したか否かではなく、親の意に背いたかどうかで罪の重さが決まる点に、当時の倫理観が見てとれる。

・捨石丸(すていしまる)
菊池寛の『恩讐の彼方に』と似ていると思ったら、どうやら同じ題材を用いた作品らしい。
主人殺しの冤罪をかけられた酔っ払い男、捨石丸は逃亡の末、父の敵討ちにきた小伝次と公共事業に取り組み、和解する。父の敵討ちのために修行を積んだのにも関わらず、遂に捨石丸を討たなかった小伝次の有り様に心が温まる。

・宮木が塚(みやぎがつか)
運命に翻弄された美しい遊女の悲話。
宮木は元々中納言の娘という高貴な生まれながら、父親が官職を失った末に死去したのをきっかけに、貧しい身分となり、遊女に身を落とす。しかし、その美しさにほれ込んだ河守が宮木の身請けを約束する。
ところが、河守を妬んだ者の策略により、宮木を身請けする前に河守は死んでしまう。愛する人を失った失意のうちに、宮木は入水自殺する。
実際に秋成が訪れた遊女の墓からインスピレーションを受け、作った作品。いかにも古典的なストーリーである。

・歌のほまれ
唐突に歌論が登場するので、とても違和感がある。万葉集に見られる類歌の多さについて論じている。

・樊噲(はんかい)(上)(下)
親殺しののち強盗を繰り返す、ならず者の樊噲が改心するまでの物語。悪人樊噲がよりによって法師になりすましている点がおかしい。
樊噲は極悪非道な人というわけではなく、時に人を喜ばせたり、仲間を助ける場面もあり、一貫性がない。刹那的に生きている男といえようか。
近松門左衛門・著、諏訪春雄・訳注「曾根崎心中 冥途の飛脚 心中天の綱島」(角川ソフィア文庫)
「大学時代、近世文学のゼミに所属していました」と私が話すと、よく
「近世…近松門左衛門か何かですか?」と訊かれる。
「いいえ、卒論では西鶴の作品を扱いました」と言うと、
「ほう、心中物ですか」と言われる。
どうも、「近世文学=近松門左衛門=心中物」、という図式ができあがってしまっているようだ。
それならば、と近松の傑作三編を読んでみた

曾根崎心中 冥途の飛脚 心中天の網島―現代語訳付き (角川ソフィア文庫)曾根崎心中 冥途の飛脚 心中天の網島―現代語訳付き (角川ソフィア文庫)
(2007/03)
近松 門左衛門

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もっとロマンチックな純愛悲話なのかと思いきや、どうも金と世間体がストーリーの大きなキーワードになっていて、ああ残念、近世文学だなあ、と感じた。

金が重要になってくるのは、相手が遊女だけに、会うにも自分のものにする(身請けする)にもお金がかかる以上、仕方がない。金を横領したり、金銭トラブルで追いつめられたりして死を選ぶなど、心中の直接的な原因は愛ではなく金なのだ。

そして世間体。
最近よく「男気」という言葉を耳にするが、現代と全く同じ意味で「男気」という言葉が何度も使われている。主人公の男たちにとっては、世間に対し、いかに男気のあるところを見せられるかが重要であり、男としてのメンツをつぶされるのが何よりつらい。そこで恋敵が遊女の前で主人公の悪口を言ってメンツをつぶそうとする、とうのがお決まりの展開となる。しかし、金を貸したの借りてないので大の大人が取っ組み合いの喧嘩をしたり、いつも寝ているくせに人が来た時だけ仕事をしているふりをしたりと「男気」の前に「大人気」ない人たちがたくさん出てくるのがおかしい。
主なあらすじは以下のとおり。

「曾根崎心中」…醤油屋の徳兵衛はある女性と結婚させられそうになるが、実は遊女のお初と恋仲である。女性との結婚を断るために多額の金が必要となるが、徳兵衛は苦心して集めた金を九平次にだまし取られたうえ、悪い噂を流されてしまう。追いつめられた徳兵衛はお初と心中道行に出る。

「冥途の飛脚」…飛脚の忠兵衛は遊女梅川に夢中になり、客の金を横領して使い込んでいた。金を横領された八右衛門は遊女たちの前で忠兵衛の悪口を言いふらす。かっとなった忠兵衛は屋敷に届けるはずだった大金を梅川の身請け金に使ってしまい、梅川と逃避行に出る。しかし自分の生まれ故郷まで逃亡したところで逮捕される。

「心中天の綱島」…紙問屋の治兵衛は妻子ある身でありながら遊女の小春に夢中である。しかし、治兵衛を心配する兄の計らいもあり、小春との縁を絶つことを決意する。その後、小春に望まぬ身請け話があり、小春が自殺しようとしていることを知る。治兵衛は小春を救おうと金の工面をするが、それを舅に見られてしまう。舅は激怒し、治兵衛と妻を離婚させる。絶望の末、治兵衛は小春と心中する。

話の先が読めないという点で「心中天の綱島」が一番面白かった。
夫を奪う憎き遊女の命を自分の着物を売ってまでしてなんとか救ってやろうとする、お人よしの妻、いつまでも治兵衛を心配する弟思いの優しい兄、自他ともに認める阿呆である三五郎、そしてダメ男の典型のような治兵衛とそれぞれのキャラが立っていて、面白い。