妊婦と読書 ― ことばは、今も。
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岡田暁生「西洋音楽史」(中公新書)
目の前にある楽譜と向き合って、音楽を作り上げていく。それだけでも十分面白いけれど、その曲を歴史の中に位置づけて眺めてみたら、もっと面白いのではないか、と思って手にした本。

西洋音楽史―「クラシック」の黄昏 (中公新書)西洋音楽史―「クラシック」の黄昏 (中公新書)
(2005/10)
岡田 暁生

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専門用語も多いので、ある程度クラシックに精通していないと難しいかもしれないが(したがって私には少々難しかった)、これ一冊で中世から20世紀までの音楽史を俯瞰でき、とても勉強になった。
概要を時間軸にしたがってかなりざっくりまとめると、下記のとおり。

・中世…はじめにグレゴリオ聖歌ありき
芸術音楽の起源は聖歌。もともと単旋律だった聖歌に「ハモリ」を加えるようになったのが作曲のはじまり。
音楽は神の秩序の存在を示すためのものだった。

・ルネサンス…宗教合唱曲の黄金時代
教会の権威の失墜とともに、人間が楽しむための音楽が誕生。15世紀にはフランス周辺から大量の作曲家が誕生。無伴奏の宗教合唱曲の黄金時代となるが、しだいに世俗曲と宗教曲が混ざり合っていく。作曲家・作品という概念が誕生。16世紀には器楽曲が大量に書かれるようになる。

・バロック…絶対王政下の音楽
宗教のための音楽は、絶対王政下における、王の祝典のための音楽へと変わっていく。祝典のBGMとしてバロック音楽が作られた。オペラ、協奏曲などが初めて登場。オペラの誕生により音楽で喜怒哀楽を表現できるようになる。
拍子感、三和音、長調・短調など今に続く音楽の「常識」が確定したのもこの時期。
バッハはバロック時代の作曲家として有名だが、当時からすると「時代遅れ」の存在で、当時の作曲家の典型例ではない点に注意。

・古典派…市民による、市民のための音楽
市民階級の勃興により、市民にも音楽が普及。楽譜印刷業がさかんになり、演奏会も頻繁に開かれるようになる。ハイドンは公開演奏会で大成功を収めた最初の作曲家。

・ロマン派…芸術音楽の黄金時代
19世紀になり、現在でも著名な大作曲家が大量に誕生。音楽批評、音楽学校などが誕生。一方で音楽が大衆化したことにより、芸術性よりわかりやすさを追求した曲のほうがうけるように。
パリの成金たちのためのサロン音楽と対照的にドイツの中産市民のためのかたくまじめな音楽が普及。

・後期ロマン派…西洋音楽史の最後の輝き
第一次世界大戦後は、戦争による文化的基盤の破壊に加え、ストラヴィンスキーはじめ、作曲家による伝統的な音楽の破壊が行われるように。

・第一次世界大戦後…ロマン派への嫌悪
崩壊後の秩序の再構築が課題に。過去のスタイルの換骨奪胎が行われる。

・20世紀の音楽…芸術音楽はアングラ音楽に?
巨匠によるクラシック・レパートリーの演奏が注目される一方、芸術音楽は一般人には理解しがたい前衛音楽に。
サロン音楽の類をルーツに持つポピュラー音楽が普及。

本書の中では優れた音源もたびたび紹介されているので、折に触れて聴いてみたいと思っている。
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角田光代「さがしもの」(新潮文庫)
本にまつわる小さな物語ばかりを集めた短編集。

さがしもの (新潮文庫)さがしもの (新潮文庫)
(2008/10/28)
角田 光代

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本は人と人を媒介し、思い出の中に溶け込み、時には長い年月を経て再び読者の前に姿を現すこともある。
本を読み返した時、読者はそこに以前読んだ時とは違った意味を見出す。そして、自分自身の成長や変化に気づかされる。
そんな自分と本とのこれまでの付き合い方を思わず振り返って考えてしまう。

9編ある作品のうち、2編を紹介。

「ミツザワ書店」…作家デビューを果たした若い男性が、数年ぶりに故郷の田舎町に帰り、町に一軒だけある本屋、ミツザワ書店を訪れる。ミツザワ書店の店員のおばあさんは商売っ気が全くなく、いつも客そっちのけで本の山にうもれながら読書にふけっていた。子どもの頃、足繁く通ったその本屋で、男性は一度だけ万引きをしたことがあった。そのお詫びをしよう、と思ったのである。ところが――。

古本屋だが、私の実家の近所にも似たような店があった。本の山の中でひたすら本を読みふけっている、商売をしているんだかいないんだかよくわからないおじいさんがいる店。あのおじいさんはいまどうしているのだろう。
こういう町の小さな本屋は、地元の人と本との出会いの場。大型書店にはない味があっていいなとしみじみ思う。

「初バレンタイン」…はじめての彼氏ができた大学生の千絵子。バレンタインにチョコレートを買おうにも、混雑したデパートで気おくれしてしまってチョコレートが買えず、自分のお気に入りの本だけをプレゼントすることにする。しかし、プレゼントが本だと知った彼が戸惑っているのを見て、本をプレゼントしたことを後悔する。せっかく好きな人と一緒にいられるのに、どうしてもぎこちなくなってしまい、苦い経験をする千絵子とその彼。初々しさがほほえましいやら、切ないやら。

後半では千絵子は30歳になっており、結婚を控えている。相手は、大学生の頃の彼ではない。彼女はもうプレゼントに悩むこともない。彼の前でも気をつかわず、堂々とふるまうことができる。そして、本を見るまで、はじめての彼氏のことさえ忘れてしまっていた――。
千絵子は何かを失ったかわりに、何かを得た。それは良いとか悪いとかではなく、時の流れが生む自然の現象なのだが、戻れない過去にそっと触れた時の物寂しさを感じさせられる作品。


川端康成「古都」(新潮文庫)
古都 (新潮文庫)古都 (新潮文庫)
(1968/08/27)
川端 康成

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数年ぶりに川端文学を読んだが、これぞ日本の純文学、と言わざるを得ない。特に大きな起承転結のある物語ではないが、ページを繰るたび、優美かつ繊細、たおやかで憂いを秘めた、静かな世界が広がる。

この物語には千重子という主人公がいるが、筆者は京都の四季折々の自然の美しさを丹念に描くことに力を注いでおり、むしろそちらが主題ではないかと感じるほどだ。
幹に生えたすみれの花にまで思いを馳せる千重子。帯のデザインの一つ一つを考えるために日々を費やす太吉郎。時間に追われてせかせかとした毎日を送る現代人から見ると、そんな時間はとても贅沢で豊かで、まるで別世界のようである。
そして、やわらかで心地よい京都弁の会話。決して饒舌ではない筆致から私がどこまで読み取れているかは不安だが、あらすじは下記のとおりである。

京都の呉服問屋の娘として美しく上品に成長した千重子。彼女は両親の愛情をたっぷり受けて育ったが、実は捨子であった。千重子は祇園祭の夜、自分にそっくりな村娘、苗子に出会う。実は二人は生き別れた双子の姉妹だった。呉服問屋の娘と、北山杉の丸太小屋に奉公をしている村娘。お互いをかけがえのない存在だと感じながらも、身分の違いから二人は一緒に暮らすことができない。
千重子は不自由なく成長したが、父太吉郎の家業は時代から取り残され、徐々に傾きつつある。そんな事情も踏まえ、機織の家の長男、秀男との結婚話が舞い込む。千重子は一生糸巻きをして過ごさなければならないのか―。
千重子と結婚できないと悟った秀男は苗子に求婚する。しかし、秀男は苗子自身を見てはいない。そこに千重子の面影を見ているのである。苗子は千重子の幻として生きなければならないのか―。

姉妹なのに千重子のことを「お嬢さん」と呼び、千重子に迷惑をかけまいと頑なに距離を置く苗子がいじらしく、悲しい。そしてそんな憂いさえも、この物語の中では美しい。
数奇な二人の今後の運命を占うような、最後の雪景色の朝の場面が印象的である。