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平野昭「ベートーヴェン」(新潮文庫)
趣味でクラシック音楽の演奏をしている私。
文学でもそうだが、単純にその作品を聴いたり演奏したりするだけでなく、その音楽ができた時代背景や作曲家の人となりがわかると、より深く作品を楽しめるように感じる。
というわけで、こちらの本を。



ベートーヴェンというと、不屈の精神によって難聴という音楽家最大の困難に打ち勝ち、数々の名曲を残した天才、とドラマティックに語られがちだが、実はその生涯を細かくは知らなかった。
本書を読んで面白かったベートーヴェンのエピソードは下記のとおり。

●幼少から「天才」だったベートーヴェンと父のエゴ
祖父、父と代々音楽家の一族に生まれたベートーヴェン。幼少期から父に音楽を教え込まれ、7歳で演奏会デビューを果たし、ピアノ、チェンバロと才能を発揮し、音楽界に名を馳せていく。音楽家としての華々しいスタートの一方で、自分の息子を少しでも神童と見せるため、わざとベートーヴェンの年齢を少なく言いふらしていた父のエゴも感じる。

●いろんな人ともめごとを起こしすぎでは?
ベートーヴェンは生涯にわたってさまざまな人と喧嘩をしていたようだ。作曲をしたものの、曲を献呈するはずだった相手ともめごとを起こし、他の人に献呈した、というエピソードは何度も出てくるし、弟との確執もあった。義妹とは、甥のカールの後見問題をめぐって裁判沙汰になっている。人間関係ではトラブルメーカーであったのかもしれない。

●失敗に終わった「運命」と「田園」の初演
同年に完成した、交響曲の5番と6番。この2曲の初演に加え、協奏曲、合唱幻想曲までを演奏したという当時のコンサートはどんなに豪華ですばらしいものだったろう!…と思いきや、実は散々な結果だったらしい。練習不足で演奏の失敗だらけ、ベートーヴェン自らが指揮を振ったものの、楽団員と喧嘩、おまけに演奏会は真冬の極寒の中行われたというのだから、現代の我々から見たら、笑い話のようである。

●実らなかった恋
何度か恋愛をしたものの、すべてうまくいかなかったと思われるベートーヴェン。お相手は未亡人、ニ十歳以上年下の女性、既婚者などとこれまたドラマティック。そしてベートーヴェンが残したラブレターの受取人は誰だったのかが論点となっていると聞くと、著名人にはプライベートもないのか…過去の傷をえぐらないであげて、とちょっと同情したくなる。

本書には、あえてなのか、耳の病気に関する記述は少ない。その分、新しいベートーヴェン像を自分の中で構築することができた。
ベートーヴェンにまつわる写真や音楽家によるエッセイも豊富に収録され、文庫ながら豪華な1冊だ。
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三島由紀夫「金閣寺」(新潮文庫)


子どもの頃から金閣寺に特別な思いを抱いていた一人の僧侶が、金閣寺放火事件を犯すまでの物語。
この主人公は吃音がきっかけとなって他者と自分との間に隔たりを覚えながら育ち、他人に理解されないことが唯一の誇りだと思っている。
その思考回路は私のような単純平凡な人間には理解しがたい複雑さで、文章を繰り返し読んでみるものの、やっぱり芯からは理解できない。

さて、この主人公はいかにも孤独なようだが、二人の対照的な友がいる。
その一人、鶴川の存在を一文字であらわすならば、「明」である。彼は、たとえば“主人公が金閣寺に特別な思いを抱くのは亡くなった父のことを思い出すからなのか”、など、物事をとても平凡で明るく「誤解」している。
主人公をなじり、恋人と心中した有為子、浅はかな母、やましい事情を抱える老師など暗い登場人物ばかりの中、鶴川の存在は作品に一筋の光を投げかける。しかし、その反動として後半で明らかになる鶴川の死の事実は、主人公と読者に重くのしかかる。
鶴川が「明」ならば、もう一人の友人、柏木は「暗」である。内飜足の柏木は主人公をもってして「生きることと破壊することが同じ意味を持って」いると感じさせ、欺瞞に満ち、すがすがしいほどに醜い存在のように感じられる。誰のことも信じていないような柏木は最終的には主人公のこともあらゆる方向から追い詰めていく。その思考回路は主人公を上回るねじくれようで、とても理解しがたい。

ところで、主人公はなぜ金閣寺に火をつけたのか。
彼にとって金閣寺は自分の美、人生を邪魔する存在である。
女を抱こうとすると金閣寺が現れる、というのはいかにもシュールだが、主人公は次第に金閣寺の幻想に追い詰められていく。
そして、金閣寺は永遠の、絶対的な美でありながら、すべての無力の根源だと判断し、金閣が焼けたら世界は変貌するのだと信じ込むようになる。
このあたりの思考回路もなんとも理解しがたいが、金閣寺に思考が支配され、その崩壊を望む過程が事細かに綴られている。

このように本作はひたすら陰鬱な印象を受けるが、最後に主人公は「生きよう」と決意する。
彼が自殺ではなく生を選んだのは、金閣寺から「死」を拒まれたからだろうか。
彼から「生」を隔てた金閣寺が最後には「死」も隔てる、というのは皮肉なものだが、そこにあるのは小さな明るさなのかもしれない。